呼吸器

気管虚脱

 

気管虚脱は気管が押しつぶされて扁平になり、呼吸をすることが困難になる病気です。
また、進行性のため放置すると重症化します。

最悪の場合、死に至ることもあります。

小型犬、短頭種、中高年犬などによく見られる傾向がある病気です。

 

気管の構造

 

気管とは喉から肺まで空気を通す柔軟性のある管です。
蛇腹のホースが良く似た構造です。

C型の軟骨が35~45個ほど連なった構造をしていて、頭の動きにも柔軟に対応し軟骨によってある程度の硬さも保たれています。

本来気管は軟骨によって補強されているため、強く吸っても吐いても呼吸することに問題は生じません。

 

原因

気管虚脱は、C型の軟骨の輪の強度が足りないため、気管がつぶれてしまい、扁平になるため空気の通りが悪くなります。

また、軟骨と軟骨の間は筋肉と粘膜の壁、「膜性壁」という構造ですが、これが内側にのびてしまうため空気の通りが悪くなります。

気管虚脱は進行性のため、処置ちなければどんどん悪化していきます。
自然治癒で治っていく病気ではありません。

頸部から症状は始まり、胸部へと進行していきます。
症状は若年から始まっていますが、気づかれない場合があり、症状が分かるのが老犬になってからということも多く見られます。

気管虚脱の原因は完全には解明されていません。
遺伝的要素や軟骨の異常が原因となり、軟骨の変化が起こると考えられています。

 

先天的な原因

もちろんどの犬種にも発症しますが、気管がつぶれてしまう要因として遺伝的なものが考えられます。
そのため発症しやすい犬種というものが存在します。

早い場合には生後6ヵ月くらいで初期症状が始まることもあります。

 

特に発症しやすいされる犬種

  • トイ・プードル
  • チワワ
  • ポメラニアン
  • ヨークシャー・テリア

 

発症しやすい犬種

  • ミニチュア・プードル
  • マルチーズ
  • パグ
  • ラブラドール
  • 柴犬

これらのように小型犬や短頭種に多く見られる傾向がありますが、他の犬種でも見られる疾患です。
好発犬種は若いうちから気管虚脱になる可能性が高いです。

パグのような短頭種はその構造上、鼻が短く首や胸まわりがコンパクトに詰まった体形をしています。
そのため呼吸がしにくく、強く呼吸する必要があるため負担がかかりやすくなります。

このような場合は、日々の繰り返しによって気管虚脱が起こる可能性が高くなっています。

 

後天的な原因

後天的な要因によって気管がつぶれてしまう場合もあります。

 

老化や肥満

老化の場合は気管のまわりの筋肉が衰えて、気管が正しい形状を保てなくなることがあります。

また、太ってしまったことによって首まわりの脂肪が増えることで、気管を圧迫し潰れてしまう。
短頭種の場合には太ると、さらに首まわりの余裕はなくなるため、気管虚脱になる確率はあがってしまいます。

 

疾患の影響

心臓疾患や慢性気管支炎などの病気になると、咳が頻繁に起こったり、その周辺の筋肉や組織にも炎症が起こります。
これらは気管への負担となり、気管の変形を起こす原因となります。

 

生活環境

気管への悪影響は生活の中に原因がある場合があります。

散歩のときに首輪を引っ張る行為は、物理的に気管に圧力が加わります。
首輪の位置はほぼ同じため、その部分に繰り替えし負担がかかれば軟骨がつぶれてしまうことが考えられます。

タバコの煙も注意が必要です。
タバコは目に見えない揮発した気体にも刺激性があり、気道に対して刺激があるため、気管への負担となります。

これらによって炎症が起こることで、気管まわりに負担がかかったりします。

 

 

症状

 

気管虚脱は気管のつぶれ具合から4段階に分類されています。
数値が大きくなるほど重症化していきます。

 

グレード1

気管内部が25%以下の減少が起こっています。
また、膜性壁がやや内側にでてきている。

 

グレード2

気管内部は50%以下になっている。
空気の通り道が半分になっているため、呼吸がしずらくチアノーゼが見られることもある。

 

グレード3

気管内部が75%減少しているので、すぐにチアノーゼを起こしてしまう。
チアノーゼは酸素欠乏状態なので、脳や肺にダメージを受けることもある。
失神することもある危険な状態。

 

グレード4

気管内部は90%以上つぶれてしまっている。
ときには8の字になってしまうほど。
かなりの重症で、命の危険性があり、外科手術を行わなければならない。

 

症状や傾向

 

初夏や梅雨、真夏の暑い夜、また季節の変わり目や乾燥注意報が出ている日など、発症しやすい傾向があります。

はじめの方は軽い咳などの症状が見られ、空せきと呼ばれる、喉に詰まった感じの咳や、水を飲んだ際にむせたりといった特徴的な症状が見られます。
ときに激しい咳がでる場合もあります。

また、首輪が引っ張られたときや興奮したとき、抱き上げたときなどに激しい咳が見られます。
安静時には症状が落ち着きます。

 

症状は進行する

初期の気管虚脱は、首まわりから始まるのが90%以上です。

病気は進行するため徐々に、胸部気管へと進み、最終的には気管支へと範囲を広げていきます。
進行と共に咳の回数は増え、咳も長くするようになります。

グレードの進行と共に症状は確実に変化していきますが、グレード4まで症状に気が付かない飼い主もいるため、手術も受けられないこともあります。

 

 

重症化する

軽い症状から急に悪化する場合もありますが、何も対処しなければ確実に病気は進行します。
重症化すると潰れた気管は戻らず、潰れっぱなしになります。
毎日のように咳がでて止まらなくなります。

息が苦しいため、運動を嫌がるようになります。
うろうろと動き回り、さまざまな姿勢をとって呼吸しやすい体勢を探すようになります。

また、横になると気管がつぶれるため苦しくて眠れなくなります。

 

ハンギングコフ

おう吐するような動作や呼吸のときにゼーゼーと音がするようになります。
それはいずれハンギングコフと呼ばれる状態になります。

「ガーガー」とガチョウの声のようなものが聞こえるようになるのが特徴です。

これは潰れて狭くなった気管に空気がとおり、膜状壁を震わせて独特の音が鳴るためです。

気管の軟骨の強度が足らず、柔らかくなってしまった場合、息を吸うとその圧力耐えられず潰れてしまうため、気道は狭くなり、息を吸っても苦しくなります。
空気の通りが少ないからです。

 

チアノーゼ

チアノーゼは酸素欠乏状態のため、歯ぐきや舌などが青紫にへんかします。

咳をし始め、ハンギングコフが聞こえるようになり、呼吸困難からよだれを垂らして苦しがります。
そのまま呼吸困難により失神したりします。

最終的には窒息によって死亡することもあります。

 

 

 

治療の方法

気管は咽頭から気管支まで続いているので、気管のどの部分が扁平化してしまって、どのくらいの程度なのかによって症状も変わってきます。

ほとんどの場合、診断はレントゲンで気管の状態を確認して診断されます。
しかし、さらに正確に調べたい場合には、内視鏡や放射線透視を行うこともあります。
これには麻酔が必要なのでリスクもあります。

 

内科的療法

気管虚脱は、気管がつぶれているため根治は難しい病気です。
つぶれた軟骨は薬を飲んでも再建されません。

内科療法は症状の緩和とコントロールを目的として行われます。
炎症やタン、咳などが症状の悪化の原因であるためです。

全ては対処療法のため根本的治療にはなりません。

 

咳が止まらないとき

  • 気管拡張剤や抗炎症剤を投与します。
  • 呼吸器の感染症を併発している場合には抗生物質も投与を行います。

去痰薬、抗炎症薬、副腎皮質ホルモン、精神安定剤などの使用や呼吸困難などに対して酸素吸入が必要となる場合もあります。

 

コントロール

できるだけ咳をさせないようにコントロールしていくことが大切です。
激しい運動をさせないようにしますが、肥満になることを避けるため適度な運動は必要です。
栄養のある食事やストレスを軽減する工夫によって、症状を軽くすることが可能です。

夏場の対策
夏はとくに症状が出やすい傾向にあります。
風通しの良い環境にしてあげましょう。
あまりに暑い日には、エアコンや扇風機などで対策しましょう。

内科療法だけでは症状が軽減 せず、とくに呼吸困難がひどい 場合には、酸素吸入が必要にな ることもあります。
内科療法では治療効果のない重い症状に対しては、いろいろな手術方法も開発されています。
しかしそのような重い症状になると、手術によっても完治はむずかしいよ うです。

 

 

 

外科手術

内科療法では効果が見られないような状態の場合には、外科手術がおこなわれる場合もあります。

軽症であれば、術後すぐに普通に呼吸できるようになります。
重症でも、症状はかなり改善され、病気の進行を防ぐことができます。

 

 

ステント法

ステントはメッシュ状になった筒状の金属です。
これをつぶれた気管に入れて気道を確保する方法がステント法です。

犬に麻酔をして内視鏡で気管まで持って生きます。
ステントは縮めてあるので、気管の中で広げます。

気管の中に筒を入れるだけなので、切開しなくてすむので比較的短時間で処置できます。
気管内で広がるため縫い付ける必要もありません。

 

欠点

簡単で安全そうなステント法ですが、欠点がいくつか見られます。

ステントのサイズがあっていない場合には、ズレたり、大きすぎて気管が傷つくことがある。

犬にとっては違和感があるため、筒を出そうと咳がひどくなる可能性もあります。

激しい首の動きや激しく吠えるなどの負担が、ステントに掛かり続けると破損してしまうことがある。
また、一度装着したステントは簡単に外せない。

 

ステント法のその後

ステントによって気管は確保されるので、呼吸はしやすくなりますが、違和感による咳が続きます。
そのため、咳を抑える薬が必要となります。
これは生涯続きます。

無駄吠えはステントの破損につながるため、吠えないようにしつける必要が出てきます。

 

 

PLLP法

ノートのバインダーとそっくりの形状をしたプロテアーゼというものを使います。
素材は、光ファイバーなどに使われているアクリルで作られています。

適度な柔軟性と硬度があるので軟骨と似ています。
アクリルは加工しやすいので、その犬によってピッタリのプロテアーゼが用意できます。

 

手術内容

  1. 喉を切開して、プロテアーゼを気管の外側にそう装着する。
  2. プロテアーゼに沿うように気管を縫い付けます。
  3. 元通り皮膚を縫い付ける。

気管内に出ている糸も粘膜組織によって覆われていくため、違和感がなくなっていきます。

かなりの改善が見込めるため、予後は良い手法です。
軽い咳が残ることもあるが、その後も投薬の必要がなくなる可能性もあります。

 

欠点

  • 気管支まで症状が及んでいる場合には採用できない方法
  • 医師の技術が必要
  • 麻酔時間が長くリスクがある
  • 費用が高い

 

切開法

これは、処置しなければ明日までもたない!が、ステントやプロテアーゼが手元にないなど緊急事態の場合に行われます。

気管に直接穴を開けて、呼吸を確保する手術です。
感染症のリスクや常にタンによる窒息死の危険性が伴います。

そのため数時間おきにタンを除去しなければいけません。

負担は大きくリスクも高い。

 

 

気管虚脱と間違えやすい病気

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