私たち人間の家庭内には、さまざまな薬品が存在します。
薬品を舐めたり飲んだり、吸い込んだりするなど、犬が誤って摂取すると中毒症状を起こしてしまいます。
最悪の場合には死亡することもあります。
最低限の知識として覚えておくことは大切です。
- 殺虫剤
- 殺鼠剤
- 除草剤
- 植物につくカビや細菌を殺す殺菌剤(抗生物質)
- 犬のダニなどを駆除するための薬浴剤
- ノミ取り首輪
風邪薬
家庭でもかなりの確率で置いてある風邪薬。
完全に人間用に作られています。
犬が風邪っぽいからと言って使ってはいけません。
量を減らすとかそういうことではなく、成分が問題です。
風邪薬に含まれるうっ血除去薬によって中毒症状が起こります。
起こる症状は
- 興奮
- うつろな動き
- 精神不安
- けいれん
- 散瞳
- 呼吸困難
このようなものが起こります。
犬に使わないようにしましょう。
消毒液
イソプロピルアルコール
消毒薬だけでなく、化粧品の溶液として幅広く使われています。
誤って飲んでしまうだけでなく、なんと揮発したガスを吸い込んでも中毒になります。
- 酔った状態でアルコール臭がする
- おう吐から吐血(血が混じったおう吐)
- 呼吸の異常
- 昏睡
液体の近くに寄らせない。
犬のいる室内で使わないなどの注意が必要です。
フェノール
フェノールとは、殺菌剤やシャンプー、せっけん、防腐剤などに使われています。
水彩絵の具のようなニオイがします。
口にすると中毒を起こします。
せっけんやシャンプーが口に入らないように注意が必要ですね。
症状は
- 流涎(よだれいっぱい)
- 食欲不振
- 呼吸が早くなる
- 運動失調
- ショック症状
- 体温低下
- 黒い尿
次亜塩素酸ナトリウム
漂白剤でよく知られているものです。
消毒剤として使われるものですね。キッチンブリーチとかです。
飲んでしまうと
- 流涎
- おう吐
- 吐血
漂白剤の匂いがするそうです。
ピレスロイド系の殺虫剤
ピレスリン、ピレスロイドなどを使った製品です。
蚊取り線香の成分ですが、蚊取り線香程度では害はありません。
ピレスリンはノミ取り首輪やスプレーなどに使われて、小さい犬が中毒を起こしやすい傾向にあります。
除虫菊(シロバナムシヨケギク)の花(子房)に含まれる天然殺虫成分をピレトリンと呼ぶのですが、ピレスロイドはピレトリンに似た化合物という意味です。
有機リン系など他の殺虫成分にはない、優れた特長を持っています。
そのため、ピレスロイドはさまざまな種類があるのでいろいろな殺虫剤が発売されています。
ペットの近くで使うのはやめましょう。
症状は
- 元気がなくなる
- 動かくなる
- 流涎
- 筋肉のふるえ
- おう吐
- 運動失調
- 呼吸異常
死亡するようなことはあまりありません。
有機リン系の殺虫剤
アブラムシ、ダニ、毛虫などを殺すために、有機リン系の殺虫剤が使われます。
これには
- トリクロロフォン
- マラチオン
- ロンネル
- パラチオンヂクロフォス
- ダイアジノン
などがあり、犬がこれを口にすることで中毒になることがあります。
アリやナメクジ、ダンゴムシにはカルバメート系と呼ばれる殺虫剤が用いられます。
有機リン系とカルバメート系の両者の長所を組み合わせた合剤もありいろいろな剤形のものが作られています。
例えば
- 水溶剤
- 噴射剤
- 粉末剤
- 顆粒剤
このうちとくに顆粒状のものは、ドッグフードに慣れているイスが間違って食べることがあり取り扱いには十分な注意が必要です。
症状
これらの殺虫剤を多量に体内に吸収して中毒をおこした犬は
- よだれを流す
- 腸の蠕動運動が早くなる
- 下痢
- 運動障害
- 筋肉のけいれん
- 呼吸障害
治療
有機リン系の教虫剤による中毒は、その化学反応によって血液の中のコリンエステラーゼという酸素のはたらきをおさえてしまうために起こるものです。
コリンエステラーゼは、脳のはたらきを正常に保つ重要な役割をもっています。
そこで、この中毒を起こした犬には、体内での有機リン系による化学反応を止めるためにアトロビンという薬物を投与して、まず中毒の治療を行います。
また、筋肉や全身のけいれんに対しては、パム(PAM)と呼ばれる薬剤を解毒薬としてアトロビンと併用します。
パム(PAM)の気をつけよう
パムは有機リン中毒の解毒薬なので、カルバメート系の中毒に使ってはいけません。
もし、カルバメート系の殺虫剤による中毒にパムを用いると、 かえって毒性が増すとみられています。
殺鼠剤
ネズミとり用の殺鼠剤による中毒はネコに多く見られますが、 ときにはイヌもこの中毒になります。
おもに、殺鼠剤を食べたネズミをネコやイヌが食べたことが原因です。
殺鼠剤にはいろいろな薬剤が使われています。
よく使用されているものには、
- ワルファリン
- タリウム
- メタアルデヒド(ナメクジ駆除剤としても用いられる)
などがあります。
もっとも一般的なワルフアリンとメタアルデヒドについて説明
ワルファリンってどんな毒?
ワルファリンは、体内に入ると血液が固まることを阻害する効果があります。
殺鼠剤としてはふつうは穀類につけたりドッグフ ードに似た固形剤に成型して使用されています。
食べるとどうなる?
ネズミが少量ずつ何回も食べると、血液が凝固しなくなって眼底出血を起こし、そのため明るいところに出てきて死亡するのが特徴です。
もし、犬や猫がこの薬剤もしくはこの薬剤を食べたネズミを何度も食べたり、あるいはいっぺんに多量に食べたときには中毒を起こします。
体への影響
この薬剤によってビタミンKが破壊され、血液を凝固させる能力のない異常なたんばく質が肝臓の中にたまるため、出血が起こります。
犬や猫の致死量
- 体重1kgあたり 11mg
- 5~15日間にわたって経口摂取
一回の摂取で死んでしまう量
犬 | 猫 |
体重 1kgあたり
20~50mg |
体重 1kgあたり
5~50mg |
症状
脈拍は速く、弱弱しく感じられ、呼吸も浅く速くなって、元気がなくなります。
ワルファリン中毒になると、重い場合には呼吸困難となり 犬、猫の舌や口腔内の粘膜は紫色になります。
チアノーゼと呼ばれる酸素が欠乏しているときの症状です。
口腔粘膜や目の結膜に斑点状の出血が現れ、また眼底の出血も見られるようになります。
尿や便や吐いたものの中に出血が見られたり、腹部に皮下出血が生じることもあります。
さらに失禁したり、けいれん、マヒ、 昏睡へと進行することもあります。
- 吐血
- 血便
- 血尿
- 皮膚、粘膜の出血
治療
中毒を起こしているイヌの血液をすべて新鮮血と入れかえる方法(全血輸血)がもっとも確実な治療法ですが、保存血液の量や血液型の点で困難な場合が少なくありません。
初期の治療としては、10〜50mg のビタミンkを筋肉、皮下あるいは静脈に注射によって投与します。
これは少なくとも5時間くらいは断続的につづづける必要があります。
ワルファリンを食べたことがわかってからただちに治療を行えば、すみやかな回復が期待できます。
しかし、体温や血圧の低下が現られるときには回復が遅く、致死的になることが少なくありません。
血液の凝固時間などを測定しながら、その後の治療法を考えて実行します。
メタアルデヒド中毒
メタアルデヒドは、殺鼠剤としても使われるのですが、カタツムリ、なめくじ、ダンゴムシなどの駆除剤としても多く使用されています。
一般の園芸店では液剤、顆粒剤、 散剤として市販されており、土壌や植物に直接散布するようになっています。
この薬剤によって死んだナメクジやカタツムリが葉の裏についているのに気づかずに食べたり、これらが死ぬ前にイヌの食べものに入りこみ、その食べものをイヌが食べることにより、 中毒が起こります。
症状
はじめのうちは、よだれが出たり運動障害、異常な興奮、筋肉のけいれんなどが起こります。
しかし、この薬剤が体内に入ってから1〜2時間後にはイヌは立ち上がることができなくなり、意識を失い、呼吸困難におちいり、血液中の酸素が不足してチアノーゼなどを起こし 死亡します。
ただし、摂取量が少ない場合には、自然に回復する可能性もあります。
治療
強度の筋肉けいれんが起きた場合は、全身麻酔をかけたうえで、胃の洗浄を行う必要も出てきます。
胃洗浄は文字どおり水や生理食塩水などで洗い流したり、毒素を吸着するために活性炭を入る、解毒剤を流し込んだりします。
また、ブドウ糖やハルトマン液(水分や電解質を血液に補充する液体)などを長時間にわたって静脈に点満する必要があり、さらに呼吸困難や血液循環の管理なども必要です。
除草剤による中毒
これは農薬中毒の一種です。
除草剤として用いられる薬品
- ピピリジニウム系
- トリアジン系
- 尿素系
- 有機ヒ素系
- フェノール系
このように様々な種類があり、種類によってはイヌやネコなどの動物に対して強い毒性を示します。
そのため、これらによる中毒事故がときどき報告されています。
除草剤が散布されたところを歩いた動物が、自分の足の裏や体表についたものをなめることによって中毒を起こします。
症状
除草剤が犬の体内に入ると胃や腸に強い刺激を与え、おう吐や腹痛、それに下痢をともなった血便などの症状を引き起こします。
その結果、イヌは脱水症状を起こして衰弱し、ときには呼吸不全、循環不全におちいり、死亡することもあります。
原因
ヒ素を含む除草剤をイヌがなめると、ヒ素は消化管から吸収されます。
皮膚に付着するとそこから直接体内に吸収されます。
ヒ素は生体への毒性が強く、嘔吐や下痢、腹痛、頭痛、知覚障害、けいれん、腎不全を含め、数多くの症状が表われ、命を落としてしまうこともあります。
フェノール系ははたんばく質を凝固させて細胞を破壊させるため、神経が破壊されます。
治療
ヒ素中毒の場合には胃洗浄や活性炭を飲ませたり、下剤を使うなど体外に薬を出させる処置を行う。
ヒ素の排出を促す効果がある、BAL(ジメルカプロール)という解毒剤を4〜5時間ごとに投与します。
また、輸液(ゆえき)(体液の補給)が必要となります。
輸液とは、水分や電解質などを点滴静注により投与する治療法で、水分や電解質などを補給します。
呼吸、脈拍、血圧、体温などにつねに注意を はらい、血液、尿のチェックを行いながら、3〜5日間くらい集中的に治療をする必要があります。
ほかの除草剤についても同様の治療を行い、さらに硫酸アトロビンやパムなどの有機リン系解毒薬などの使用もあわせて考えます。
予防
散歩の途中で雑草などの一部が枯れている場所があったときには、除草剤が散布されたと考えられるので、イヌがそのようなところに入らないように注意することが大切です。