腎臓が急にきちんとはたらかなくなり、体にとって有害な物質を排進できなくなることがあります。
このような状態を急性腎不全といいます。
急性腎不全の症状
- 食欲がまったくなくなる
- おう吐や下痢
- 脱水
これらの症状が見られるようになります。
脱水症状は深刻なこともあり、ひどいときには口内も乾燥してパサパサになります。
また、老廃物が体内に大量にたまって尿毒症をひきおこすこともあり、それが進行すればけいれんなどの神経症状が出ます。
人間の急性腎不全では無尿期や乏尿期があり、尿の量が極端に減少することがありますが、犬では尿量が極端に減少することはあまりありません。
また、 人間では回復期に多尿となることがありますが、犬ではあまりみられません。
高窒素血症になる
急性腎不全になると、たんぱく質を代謝したときにつくられる窒素化合物(非たんばく体窒素)をうまく排泄できなくなり、血液中の窒素の濃度が上昇する高窒素血症になります。
本来なら体内から排泄されるべき窒素化合物が血液中に多く含まれる状態になったことで、身体の各機能に障害がでる病気のことです。
高窒素血症は、血中濃度にしめる毒素の割合が高まるために、腎機能や肝機能に負担がかかり、多臓器に渡って不調が起こります。
見られる症状としては下記のようなものです。
- 疲労
- 意識障害
- 錯乱
- 蒼白色の皮膚
- 速脈
- 口の乾燥
- 口の渇き
- むくみ
といったようなものがあります。
神経や筋肉の場合は、知覚異常、末梢神経痛、筋肉の痙攣、全身の痙攣が起こることがあります。
電解質の異常が起こる
多くの場合で、血液中のカリウムやカルシウム、リンなどの濃度が異常になります。
血液の電解質に異常が発生している状態です。
高カリウム血症
尿の量が減少したり、尿が排池されないときには、血液中のカリウムの濃度が高まっている可能性があります。
このような状態を高カリウム血症と言います。
この状況は、心臓に障害をおこすほどに危険なレベルまで上昇することもあります。
代謝性アシドーシス
血液は正常な状態では弱アルカリ性ですが、腎不全になると血液が酸性に近づきます。
この状態を代謝性アシドーシスと呼び、死の恐れのある非常に危険な状態です。
急性腎不全の原因
原因はさまざまです。
腎臓自体に異常がある場合
急性糸球体腎炎(急性腎炎)
腎臓の糸球体の基底膜が突然炎症を起こす病気です。
ここに異常が起こると腎臓から余分な窒素化合物をうまく排泄できなくなり、そのため血液中の窒素化合物の濃度が高くなります。
ネフローゼ症候群
糸球体の基底膜の目が粗くなった状態です。
わかりやすいうと、コーヒーのフィルター機能のような部分の目が粗いため、タンパク質が通り抜けてしまっている状態です。
これによって症状が起こります。
タンパク質が尿にもれていってしまっているので、血液中のタンパク質が減少します。
その結果、血液の濃度が下がって、血管の浸透圧のバランスが崩れて、水分が体の細胞にもれだします。
そのため体がむくんでいきます。
尿路結石による場合
腎臓以外の器官に異常がでてて、腎臓がきちんとはたらかない場合があります。
尿路結石症が挙げられるでしょう。
尿路とは、腎臓から尿道までの尿の通り道です。
ここに結石ができることで尿管が詰まって、尿が流れなくなったり逆流したりする病気です。
結石とは、尿に含まれるカルシウム・シュウ酸・リン酸・尿酸などが結晶化したものです。
いわゆる石ができるというやつです。
これによって尿が排泄できなくなり、急性腎不全におちいることがあります。
急性腎不全の診断方法
血液検査や尿検査をおこないます。
とくに、血液中の窒素化合物の検査とカリウムやカルシウムの濃度の検査は大切です。
1.血液中の窒素化合物の検査
血液の中の窒素化合物の測定は腎臓の検査としてもっともよく使われています。
ただし腎臓の75%パーセント以上が機能を失わなければ窒素化合物の濃度は上昇しないので、この検査で問題が明らかになったときにはかなり病気が進行しているということになります。
賢不全であっても、高窒素血症であるかないかによって治療法は変わります。
2.血液中の電解質の検査
カリウムやカルシウム、リンなどの濃度を調べます。
- 血液1リットルあたり4mg/dlが正常な値です。
高カリウム血症とよばれるのは7〜10で、このくらいになると心臓に障害をおこします。
さらに10になると心臓が停止することもあります。
急性腎不全の治療
治療法は症状によって異なりますが、急性腎不全の代表的な尿量が少ない高窒素血症の治療法をとりあげます。
主な治療法は
- 尿の量をふやすこと
- よぶんな窒素化合物を体内からとりのぞくこと
- たんぱく質以外の栄養を与えること
このようになっています。
1.尿の量をふやす
まず、高窒素血症にかかっている犬の尿の量をふやすようにします。
なにもしていなくても
- 呼吸
- 皮膚から蒸発
などで水分というのは減っていくものです。
健康なときの犬の1日に失われる水分量
犬の体重1kgあたり
体の表面から | 尿として |
20ml | 最低 20ml |
たった40ml?
いえ、体重1kgあたりなので、体重が10kgなら体表と尿をあわせて
最低400mlは水分が失われます。
輸液をおこなう
食欲も元気もない犬が十分に水分を取ることは難しいので、水分の補給をするための輸液をおこないます。
いわゆる点滴ですね。
輸液の量は脱水の程度やおう吐、下痢から失われる量なども計算しなければいけません。
輸液に用いる溶液にはさまざまな種類がありますが、高カリウム血症をおこしている場合には、カリウムの少ないものを選びます。
また、腎不全では血液のPHが酸性に傾いているので、 血液がアルカリになるように調整されたものを使います。
症状が重いときには血糖値が高くなることもありますが、そのような状態でなければ、ブドウ糖の入った輸液にするとより尿が出やすいようなります。
カルシウムを輸液に混ぜることや体内のたんぱく質の消費をおさえるため、たんぱく同化ホルモンや、ときには男性ホルモンを混ぜることもあるでしょう。
2.体内から窒素化合物をとりのぞく
高窒素血症のときには、体内から窒素化合物をとりのぞくことも重要です。
もちろん輸液で尿の量を増加させ、窒素化合物を体外に排出することも大切ですが、それだけでは不十分なときもあります。
そのため、腹の中に灌流液(かんりゅうえき)を入れて1時間くらい後に回収する治療法(腹膜灌流)というものがあります。
腹膜というのは内臓を覆っている袋のようなものなのですが、その中に透析液を一定時間満たしておくと、腹膜を介して血液中の余分な水分や老廃物が透析液の側に移動します。
腹膜を使った透析です。
まさに洗浄ですね。
ただし、これは1~2回程度では効果がなく、1日に4~5回はおこなう必要があるうえ、かなり大がかりな治療法です。
犬の体が大きい場合には血液透析も有効です。
しかし、専用の装置が必要になるでしょう。
窒素化合物を吸着させる薬物も使われます。
犬にカプセルに入った薬を飲ませ、消化管から薬ごと窒素化合物を出してしまう方法です。
3.たんぱく質以外の栄養を与える
急性腎不全ではふつう、食欲がなくなってしまうため、食べものから栄養(カロリー)を得ることができません。
そのため、放っておくと、生きるために最低限必要なカロリーは、体内にたくわえられた脂肪や筋肉を消費してまかなうことになります。
しかし、自分の体のたんぱく質を分解してカロリーにすると、そこから窒素化合物作られてしまうので、賢臓の機能が大幅に落ちて高室素血症がおこっているときに、これは困ります。
そこで、たんぱく質以外の栄養源である糖分や脂肪を与え、たとえ不十分であったとしても犬にカロリーを補給します。
これにより、体内でも窒素化合物が増えるのを少しでも抑えることが目的です。
腎不全のお薬
治療薬とはいえませんが、症状の進行を遅らせたり、緩和するものはあります。
フォルテコールは高齢のイヌやネコにしばしば見られる心不全や腎不全の治療薬です。