ズーノーシス

Q熱

自宅でペットの出産を行ったりしたあと、なんだか風邪のような症状が・・・
もしかしたらQ熱かもしれませんよ?

Q 熱とは人も獣も両方が感染する感染症(ズーノーシス)のひとつです。

そのため、家で飼っているペットから人間に感染する可能性があります。
感染する主な動物は、ウシ・ヒツジ・ヤギ・イヌ・ネコ・トリです。

感染者数は毎年数十人と少ないようですが、ヒトは大変感染しやすく、「病原菌1~10菌体」程度侵入されると感染が成立してしまいます。

 

Q熱とは?

Q熱という病名は、「Query fever=不明熱」に由来しています。

1935年にオーストラリアで原因不明の熱病が発見されましたが、当初はわからなかったのため、Q熱と呼ばれました。

のちにリケッチアの一種、コクシエラ バーネッティ(Coxiella burnetii) による感染症であることが明らかにされました。

 

動物の症状

  • ヤギ
  • ヒツジ
  • ハト
  • カラス

このように多くの動物や野生動物にも感染しますが、ほとんどは症状があらわれません。

しかし、妊娠中の牛や羊などが感染すると流産や死産を起こすことがあります。
また、妊娠率の低下などの繁殖障害があります。

 

 

人の症状

人間は感染しても50%の人は症状があらわれません。

残りの50%は急性Q熱を発症します。

Q熱の潜伏期の長さは、通常10-14日ですが、最初にその人の体内に入り込んだコクシエラ菌の数によると考えられています。

多数の菌が入り込めば、Q熱の潜伏期は短くなります。

2~3週間の内に発病する場合が多いですが、その一方で潜伏期が40日に達する人もいます。

 

全快した人は、終生にわたる免疫を獲得します。

 

急性のQ熱

急性Q 熱は多彩な症状や発熱が見られます。

  • 高熱(ピークが39.4度-40.6度)
  • 激しい頭痛
  • 悪寒
  • 筋肉痛
  • 混迷
  • 咽頭痛
  • 発汗
  • 乾いた咳
  • 吐き気やおう吐
  • 下痢・腹痛
  • 胸痛

このような症状が、いくつか組み合わさって急激に出現する場合が多いです。

多くは上気道炎や気管支炎、肺炎など呼吸器感染症のような症状が見られます。

発熱は2日ほどのこともありますが通常1~2週間続き、体重が減ります。

 

急性のQ熱の死亡率は約1~2%程度あります。

 

予後

基本的に予後は良好の場合が多いですが、
脳炎や髄膜炎等の合併症の可能性もあります。

また、急性Q 熱の一部は心内膜炎など治療が困難な慢性Q 熱に移行します。

 

 

慢性のQ熱

急性Q熱から慢性Q熱に移行する頻度は5%程度とされています。

慢性のQ熱は、6ヶ月以上にわたる感染がみられるもので、急性のQ熱に比べて症状が重い。
患者の65%が死亡します。

慢性肝炎、骨髄炎、心内膜炎をおこすことが多く、予後は不良である。

また、慢性のQ熱となる患者の大部分は、もともと心臓弁膜症があったり、心臓弁膜の手術を受けている人たちです。

臓器移植を受けている人、癌患者、慢性の腎臓病患者なども、慢性のQ熱になりやすいです。

 

注意ポイント

急性のQ熱となった患者が、その最初の感染から1年後に慢性のQ熱を発病することもあれば、20年もたってから発病するケースも見られます。

 

 

原因

コクシエラ・バーネッティイという細菌に感染することで発病します。

この菌は自然界では多くの動物、ダニが保菌しているため感染源となり得ます。

感染した動物は保菌しており

  • 乳汁
  • 流産胎仔
  • 胎盤
  • 羊水
  • 尿

これらから混ざって出てくるため注意が必要です。
排菌期間、量などはよくわかっていません。

 

出産時や流産の際は注意

特に動物のメスの子宮や乳腺は、慢性のコクシエラ菌の感染の部位となっているため、出産時や流産の際には、多量のコクシエラ菌が羊水や胎盤中と共に出てくるので感染の原因となります。

 

エアロゾルを吸い込む

コクシエラ菌は家畜やペット、野生動物の排泄物や分泌物に混ざってでてきます。

彼らは熱や乾燥、通常の多くの消毒薬に強く、体外の環境下においても、数週間から数ヶ月といった長期間の生存が可能です。

そのため、これらのエアロゾル(空気中に舞った菌、ホコリや砂)などを吸い込むことで感染します。

長期間の感染リスクがあるということですね。

 

 

 

動物の感染ルート

コクシエラ菌に感染することで発病しますが、動物への感染源ははっきりしていません。

感染した動物のフンや尿、ミルクなどにもコクシエラ菌が出てくるため、乾燥に強いこの菌は、塵埃と共に空気中に存在する可能性が高く、汚染粉塵の吸入も考えらえます。

他にも、保菌ダニによる咬傷、保菌動物の補食によって感染するのではないかと考えられます。

また、 垂直感染(親の胎盤から子供にうつる)もあります。

 

 

人間の感染ルート

人は、菌体を含むエアロゾルを吸入することによる感染が最も多いです。

感染した家畜が生活する納屋やその付近のほこりの中に含まれるコクシエラ菌を吸いこむようなことで、ヒトは感染します。

 

非常に乾燥に強いこの菌は、ほこりの中に混じっており、感染した家畜の排泄物や胎盤・羊水の乾燥したものなどが含まれていることがあるためです。

そのため感染動物が付近にいなくても、風に運ばれた汚染粉塵から感染することもあり、風に乗って数キロ離れた場所に届くこともあります。

まれに、保菌ダニの糞塵吸入や咬傷などからも感染するようです。

 

集団感染

犬や猫などペット、家畜の出産に伴うアウトブレイク(集団感染)も報告があります。

特に感染猫は人のQ熱の重要な保菌動物であると考えられており、分娩した羊水、胎盤などとの接触により人に感染する可能性があります。

 

 

人から人にうつる?

ヒトからヒトへの感染はまれだとされています。
染された食物を食べての感染は少ないと考えられています。

 

 

治療(人間)

急性Q熱の場合は、抗菌薬による治療を発症から3日以内に行うと一般的に効果が最も高い。
2~3日以内に解熱するが、2~3週間は続ける必要がある。

テトラサイクリン系抗菌薬が第一選択薬ですが、ニューキノロン系を使用することもあります。

大抵は投与後、長期化した場合はリファンピシンなどと併用される。

クロラムフェニコールなども有効である。
とされているが、体に重大な副作用があるため、多剤耐性のため本剤以外に選択肢がない場合にのみ用いられる。

 

再びぶり返したときにはら、すぐに投薬を再開することが重要である。

 

慢性の場合

慢性型の場合は予後が悪く、数年にわたる投薬が行われても十分に効果が得られないこともある。

急性型の発症の際に適切な治療を行い、慢性型に移行させないことが重要である。

 

 

予防

動物の出産や流産の際には、Q熱のリスクがあると考えなければいけません。
もちろんその他の人獣共通感染症の可能性もあることから、素手での作業や粉塵の吸入を避けるなど気遣いが必要である。

 

出産や流産のときの予防

分娩や流産猫を取り扱う際には手袋およびマスクを着用し、汚染された乾燥粉塵を予防する。

流産胎盤などは焼却しましょう。

汚染された環境はクレゾール石けん液、5%過酸化水素水で消毒する。

 

異変を感じたら

猫との接触後に発熱や呼吸器症状を示した場合は医療機関を受診する。

発熱での受診時に、動物との接触歴を医師に告げることも重要である。

 

日本では本病のワクチン(予防接種)は利用できない。

コクシエラ菌は環境中に広く存在し、健康人であれば感染しても不顕性であることが多く、日和見感染 菌とも考えられる。

目立たないが、忘れてはいけない存在である。

 

 

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