トキソプラズマというに原虫よる原虫感染症である。
原虫とは真核単細胞の微生物であって動物的なものを指す語。
現在では寄生性で特に病原性のあるものについて言うことが多い。
世界中で見られる感染症で、世界人口の3分の1が感染していると推測されているが、有病率には地域で大きな差がある。
予防するためのワクチンは存在しない。
一度感染すると終生免疫が継続するが、感染率は国・地域・年齢によって異なる。
症状
犬猫の場合
ほとんど症状はありません。
健康な人の場合
感染しても健康な人にはほとんど問題がなく、初感染でも、およそ8割の場合は発熱もなくリンパ節が腫れる程度でほとんど気付かれない。
残り2割程度では、リンパ節の腫れや発熱・筋肉痛・疲労感が続く亜急性症状が出て、そのあと緩やかに(1ヶ月程度で)回復する。
しかし、まれに急性症状を示す患者がいる。
この場合は眼(脈絡網膜炎)、心臓、肺などに病変が起き、神経系に症状が出る場合もある。血液中に原虫が認められる虫血症も長引き、尿や唾液のような体液にも原虫が出現する。
いずれの場合でも組織中にシストが生じて慢性感染に移行する。シストの検出は難しい。慢性感染になった場合の治療法は確立していないが、特に症状が出るわけではないので問題になることは少ない。
驚きですがこういう研究報告もある。
トキソプラズマの慢性感染によりヒトの行動や人格にも変化が出るとする研究例はかなりある。
- 男性は反社会的になる。
リスクを恐れなくなる・集中力散漫・規則破り・危険行為・独断的・反社会的・猜疑的・嫉妬深い・女性に好ましくない。- 女性は社交的になる。
社交的になる・ふしだら・男性に媚びをうる、などなど。
免疫抑制状態の場合
免疫抑制状態とは、免疫がきちんと働かない状態のこと。
原因として
- エイズ 後天性免疫不全症ウイルス(HIV)感染症
- 糖尿病
- 慢性アルコール中毒
- 膠原病
- 臓器不全症
- 血液系悪性腫瘍(がん)
- 副腎皮質ステロイドや免疫抑制剤の使用中
- 抗癌剤,移植などの治療中
免疫抑制状態の患者が感染すると中枢神経系障害や肺炎・心筋炎を起こすこともあり、より重篤な疾患を引き起こしやすい。幼い子供も免疫系の機能が十分でなく、重篤な症状になる場合がある。
トキソプラズマ陽性のエイズ患者の例
Tリンパ球が200以下になると予防をしないかぎりトキソプラズマ脳症を発症する。
これはシスト中の緩増虫体が活性化し、血流に乗って全身に広がり脳に至るためである。
- 病状
潜行性になるときもあり、この場合は突然脳症を発症する。
脳を冒されると、神経症状が出て急速に進行する。- 症状
部位に応じてさまざまで、片麻痺、失語、視野狭窄、眠気、不安感など。
稀ですが延髄を冒された場合は、対麻痺が起こる。
妊婦の場合
妊婦が初めて感染した場合は、その胎児にも感染が及ぶことがあるので注意が必要です。
感染した胎児には
- 流産
- 死産
- 脳の障害
- 網脈絡膜炎による視力障害
などが生じることがありますが、症状も障がいの重さも様々です。
脳炎や神経系疾患をおこしたり、肺・心臓・肝臓・眼球などに悪影響をおよぼすなど。
感染しても何も症状がない場合や、出生時に問題がなくても成長するにつれて症状が出る場合もあります。
ワンポイント
妊婦は胎児という半分が自分ではない異物を自分の免疫系が拒絶しないために、妊娠中の母体では免疫が「不完全」な状態になっています。
特に胎児・胎盤周辺では免疫不全状態になっており、このことが母体では問題のないトキソプラズマが胎児・胎盤で活動して問題となる原因になっています。
原因
トキソプラズマに感染することで起こります。
どんな原虫なのか?
トキソプラズマは家畜の肉や感染したばかりのネコの糞や土の中などにいる、ごくありきたりの原虫です。
マラリア原虫の仲間です。
原虫と言っても、とても小さな単細胞動物なので目には見えません。日本では大人になってから感染率が高くなる傾向にあります。
トキソプラズマは幅3 µm、長さ5-7 µmの半円〜三日月形をした原虫である
- 細胞内寄生性であり、環境中で単独では増殖しない。
空気中で増えたり土中で増えたりしない。生物の細胞に寄生して生きるものである。
トキソプラズマのライフサイクルは終宿主のネコ科動物内でのタマゴを産む有性生殖とその他の動物の宿主内で分裂する無性生殖のステージからなる。
有性生殖はネコ科動物の腸管上皮内でのみ成立するが、無性生殖はヒトや家畜など全ての温血動物で可能である。
トキソプラズマのライフサイクル
猫の場合
本来は猫に感染する寄生虫であるため、終宿主であるネコ科動物が感染中間宿主(この場合ねずみなど)を捕食する感染してしまします。
体の中でトキソプラズマは腸管上皮に侵入する。
原虫は数回の無性生殖を行った後、有性生殖により雌性、雄性配偶子を形成する。
両者は腸管内部で融合し、未成熟オーシストとして糞便などとともに体外に放出される。
オーシストとは
受精卵の周囲に被膜や被殻が形成されたもの。とあるのでわかりやすくいうとタマゴである。
未成熟オーシストは一定時間中に分裂し、一つのオーシストの中に8個の虫体が含まれた成熟オーシストとなる。
オーシストは糞便中に排出され、そのあと数日間かけて成熟し、数ヶ月以上生存している。
次の動物に摂食されるのを待っている。
消毒液に対する抵抗性が高いが、熱処理(56 ℃15分)や冷凍処理(-20 ℃24時間)で不活化できる。
他の動物の場合
ヒトを始めとする中間宿主が感染した肉や手についた卵(ネコ科動物のオーシスト)を食べることにより、感染すると摂取されたトキソプラズマは、消化管壁から中間宿主の細胞内に侵入し、内生2分裂とよばれる特徴的な2分裂を行い活発に増殖する。
猫以外の動物の中でタマゴ(オーシスト)は生まれない。
増殖方法
- 母虫体の細胞内に2つの娘虫体が生じどんどん大きくなって、それが母虫体を破壊する。
バーーン。です。 - ふたたび原虫が周囲の細胞に侵入することを繰り返す。
このように急激に増えていくのだが、通常は宿主の免疫系の作用によって排除されていくが、免疫系の作用が及びにくい筋肉や脳、中枢神経系ではシストという状態になる。
シストとは
一時的に小さな細胞体や幼生が厚い膜を被って休眠状態に入ったような状態。
被嚢・嚢子・包嚢などと訳される。内部では無性生殖によりゆっくりと増殖している。シストは室温でも数日、4 ℃なら数ヶ月生存しており、-12 ℃までの低温にも耐えるが、熱処理(56 ℃15分)や冷凍処理(-20 ℃24時間)で不活化できる。
シストは安定な壁に覆われているため、トキソプラズマは免疫系の攻撃を受けずに生存を続ける。
この状態の中で緩やかに増殖を続ける。シスト中の原虫を緩増虫体と呼ぶ。
トキソプラズマでは、中間宿主-中間宿主の感染が成立するという点が大きな特徴となっており、この形質が本原虫の急速な拡散、遺伝的均一性の増加をもたらしたと考えられている。
感染ルート
- トキソプラズマは人間を含む幅広い温血動物に寄生するが、終宿主はネコ科の動物である。
- 人間への感染経路としては、シストを含んだ食肉やオーシストを含むネコの糞便に由来する経口感染が主である。
- オーシストは耐久性があるので、直接糞便に接触しなくても、土壌を経由して野菜や水を汚染する場合がある。
- 眼瞼結膜からも感染するが、空気感染、経皮感染はしない。
- 急性感染期に宿主が妊娠中であれば原虫が胎盤を通過して胎児に移行する。
食肉
おそらくほぼ全ての哺乳類・鳥類がトキソプラズマに感染する可能性があり、したがって食肉は種類によらず感染源になりうる。
とくに下記のものは高頻度にトキソプラズマのシストが見つかります。
- 羊肉
- 豚肉
- 鹿肉
感染動物の食肉を生食したり加熱が不十分だったりすると、感染の原因となる。
食肉そのものだけでなく、包丁やまな板などが汚染されて、それが他の食材や手を汚染することもある。
ネコ
例えばネコの糞便中のオーシストが付着した食餌をネズミが食べることで感染し、ネズミの体内に形成されたシストはネコがネズミに噛み付くことで取り込まれる、という具合に生活環が成立していると考えられる。
またこのような研究報告がある。
トキソプラズマに感染したマウスはネコを恐れなくなる(猫の尿の匂いに引き寄せられるようになる)。詳しい機構はわかっていないが、ドーパミン量が多くなっていることと関係があるかもしれない。
これは猫を最終宿主とする原虫にとっては非常に都合が良くできている。
感染したねずみは猫に襲われやすくなっていて、食べられるリスクが上がるのだ。
猫から人間への感染
人間への感染は、飼い猫のトイレ掃除、園芸、砂場遊びなどで手に付いたオーシストが口に入ることが考えられる。
ただし
感染ネコがオーシストを排出するのは初感染の際の数週間に限られており、オーシストを排出しているのはネコの1~2%程度に過ぎない。
ネコと触れるだけで感染するわけではなく、またネコの糞便中のオーシストも成熟するのに数日を必要とすることを考えると、通常の飼い猫であれば感染源としてそれほど危険ではない。
胎盤
感染は通常腸管で起こるが、マクロファージに侵入し血流に乗って全身へ広がることができる。このとき宿主が妊娠していると、胎盤を経由して胎児に伝染する場合がある。
- 確実に伝染するのか?
伝染のリスクは感染時期によって異なり、妊娠初期の感染では低率である。
しかし、しだいに増加し妊娠末期ではリスクは70 %に達する。
ただし、胎児の症状は感染時期が早いほど重篤になる。
- 疫学的な研究により、トキソプラズマ陽性だと男児が生まれやすいという結果が得られている。
その他
臓器移植や輸血によって感染した例が知られている。また実験中に、誤って注射したり、飛沫が眼や鼻に入ったりして感染した例もある。
予防
- 糞便の処理を毎日(24時間以内で)実施する。
感染したネコがオーシストを排出するのは、初感染後数日からおよそ2週間までの間のみであり、また、排出されたオーシストが成熟し感染能力を獲得するまでに少なくとも24時間を要するとされるため、糞便の処理を毎日(24時間以内で)実施することにより感染力のあるオーシストとの接触を回避できる。
(このときトイレ容器は熱湯で消毒することが望ましい)。
- 調理の前後にはよく手を洗う。
ほぼ全ての哺乳類・鳥類がトキソプラズマに感染する可能性があるため、食肉に付着している可能性は十分ある。また、手についていたものが食品に付着して汚染してしまうこともある。
- 園芸や猫の世話をする時にはゴム手袋などを着用する。
ガーデニングやすな場など土壌との接触による環境からのトキソプラズマ感染は、終宿主であるネコの糞便に含まれるオーシストにより引き起こされる。
オーシストは-20℃で1ヶ月程度生存可能であることが示されている。
- 生食や無滅菌の牛乳を避け、加熱、燻製、塩蔵がしっかりされた食品をとる
- 24時間以上冷凍した食品を使う
中心が-12℃になるまでの凍結が有効であるとされる。
なお冷蔵処理では原虫の感染能力を排除できないため注意が必要である。
- 殺菌
次亜塩素酸やエタノールを含む多くの消毒剤が無効であるため注意が必要である。
- 野菜や果物は酢水で洗ってから食べる
- 猫はできるだけ部屋飼いにし、生肉を与えたり狩りをさせたりしない
- 肉類は十分に加熱し食べる
食肉中のシストの不活化には、中心が67℃になるまでの加熱すること。
電子レンジによる加熱では内部温度の十分な上昇が得られないため必ずしも確実であるとはいえない。
汚染された家畜の肉などをユッケやレア肉といった非加熱な状態で食べることによってもトキソプラズマはヒトの体内に侵入する可能性があります。
- 妊婦はなるべく生肉を食べない
- 猫を処分する必要はない
もし飼い猫が外出せず、かつ生肉を食べないのであれば、飼い猫から感染することはまずあり得ない。
ゴム手袋などを着用して飼い猫のトイレを毎日清潔に保ち、さらに適宜ゴム手袋を消毒すればよい。
妊娠を理由に飼いネコを処分する必要はないが、猫の糞便の処理は妊婦以外の者が行うことが望ましい