心臓にある僧帽弁が閉鎖不全を起こす病気です。
僧帽弁は左心室と左心房の間にある弁で、閉じたり開いたりすることで血液の逆流を防ぐ役割をしています。
さまざまな原因で僧帽弁がきちんと弁としての役割が果たせなくなると、徐々に体に異変が生じます。
この状態が長く続くと、肺水腫や呼吸困難になります。
原因
左心室と左心房の間にある僧帽弁は、血液の逆流を防ぐ役割をしています。
閉じたり開いたりすることで役割を果たしています。
僧帽弁の変化
僧帽弁が完全に閉じなくなるためにさまざまな症状が起こるようになります。
2枚の弁からなる僧帽弁ですが、長い時間の間に少しづつ、分厚くなって変形していきます。
また、この弁は細いひも状の腱(腱索)で支えられていて開閉しています。
そのため、腱索やそれを支える乳頭筋と呼ばれる筋肉の異常などもこの病気に関係しています。
これらの影響から弁がきちんと閉まらなくなります。
原因は良くわかっていませんが、年齢が高くなると起きやすくなります。
閉鎖不全による影響
僧帽弁が完全に閉じなくなることで起こる影響
左心室が血液を押し出そうと圧力をかけたとき、血液は本来の弁が閉じて大動脈の方向に流れていきます。
- 弁が閉じ切っていないため左心房の方に逆流する。
- さらに、その影響から肺からくる肺動脈の流れにも影響を与える
これによって肺にまで負担がかかってしまいます。
このこの状態が長く続いたり、僧帽弁の閉鎖不全が重くなったりすれば、肺はうっ血を起こしてしまいます。
うっ血とは
静脈や毛細血管内の血流が滞って溜まっている状態です。
血流が止まっているのでその部分は低酸素状態になっており、細胞に変性や壊死などの影響を与える。
肺水腫と腹水
肺へと流れ込んでしまった血液は、肺でうっ血します。
肺の毛細血管に血液がたまってくると、毛細血管から血液中の液体成分がにじみ出てきます。
その結果、酸素と二酸化炭素を交換する肺の内部にある器官「肺胞」に水がたまり機能できなくなります。
肺の中の組織は水につかり、呼吸を繰り返しても楽になりません。
これが「肺水腫」です。
同じようにおなかで液体成分がたまれば「腹水」と呼ばれる症状です。
これらの症状のときにレントゲンを撮ると、真っ白に映るためよくわかります。
症状
年齢を重ねるにつれて徐々に進行していきます。
はじめは興奮したときなどに軽い咳がでる程度ですが、そのせきの間隔がだんだん短くなっていきます。
乾いたような咳(空せき)が見られ、夜中から朝方にかけてひどくなることが多い傾向にあり、重くなると一晩中止まらないこともあります。
さらに病気が進行すると
咳と同時に呼吸困難を起こしたり、貧血になってチアノーゼという酸欠症状を起こします。
唇や舌が紫色になります。
発作を起こして倒れることもあります。
このような発作が頻繁に起きたり、大きな発作に襲われると生命に関わることもあります。
小型犬に発祥する傾向があり、早い場合には5、6歳くらいで症状がでることもあります。
水をたくさん飲むようになる
心臓に不具合が出て血流が悪くなると、血液のろ過装置である腎臓にも影響がでてきます。
血液の流れが悪いため仕事になりません。そのため腎臓は
「水分をが必要だ!」
と脳へ信号が送られます。
そのため水が飲みたい衝動によりたくさん水を飲みます。
しかし、水分をとってもポンプ機能である心臓がうまく機能していないため、改善させれません。
このような状態が続くと、腎臓は尿から老廃物を排泄できなくなり、さらに体内の水分量や塩分量など(体液)を調節することができなくなります。
急性腎障害と呼ばれる状態で死亡することがあります。
かかりやすい犬種
- シーズー
- チワワ
- プードル
- ポメラニアン
- マルチーズ
- ヨークシャーテリア
検査
検査をすることで病気の進行状況を知ることができ、その後の治療方針が決まります。
こんな検査します。
心雑音
僧帽弁の閉鎖不全に特徴的なのは心臓の音の変化です。
心臓に雑音を聞くことができます。
その結果とさまざまな症状がから診断されます。
心雑音は聴診器などなくても聞こえる場合があるため、毎日愛犬を抱っこしているような飼い主の場合その雑音に気が付くことがあります。
すこし高音で「シャー」や「ザー」のように聞こえるようです。
レントゲン撮影
レントゲンを撮ることで心臓の変形や肺やお腹に水が溜まっているか?
など病の進行状況を知ることができるためとても重要です。
エコー検査
超音波によって心臓や弁の状態をリアルタイムに知ることができます。
患部の毛を剃って、ジェルを塗って、器具を接触させるだけなので麻酔もいらない、痛みも危険もないとても良い検査機器です。
素人目には何が写っているのか良くわからない・・・
治療
人間の場合、外科手術を行うことが一般的ですが、体の小さな犬の心臓は人間よりさらに小さく、その患部である弁はさらに小さいため縫合も容易ではありません。
また、人間の場合人工弁などを入れますが、犬用に開発されたものはコストの関係上ありません。
ペットの場合では弁の異常や心肥大を外科手術で改善することは困難です。
内科的療法が中心
症状を軽くするために強心剤や利尿剤などによる内科的療法が主になってきます。
- 強心剤:心臓の動きを強める
- 利尿薬:体内の余分な水分を排出し、心臓へ流れ込むの血液量を減らす
また、血管拡張剤で血管を広げ、心臓の負担を軽減する時もあります。
このような治療は長期間薬を飲ませる必要があり、ときには一生続くことになるでしょう。
薬物療法
薬物療法は薬で心臓への負担を減らします。
状況に応じて一時的、または長期にわたり行いますが、場合によっては一生にわたって薬を飲まなければならないこともあります。
症状に応じて強心薬、利尿薬、血管拡張薬などの薬が投与されます。
利尿薬
心不全になると心臓のポンプ機能が悪くなり、全身の血液のめぐりが悪くなります。
そのため腎臓に運ばれる血流が減るので、尿が作れません。
体内に水分がたまりむくみを発生させ、心臓への負担も増加します。
利尿薬とは尿量を増加させる効果があるお薬です。
腎臓に作用してナトリウムを体外に排出させる作用があり、それによって細胞外液の浸透圧が変わり体内の水分が尿として排出されます。
血圧を低下させ、浮腫や肺水腫を改善させます。
不全の初期段階において血圧への影響は少なく電解質異常などが起きにくいことから、比較的短期間における心不全治療薬として使用されます。
ラシックス
有効成分 | フロセミド |
成分量 | 40mg |
内容量 | 12錠 |
大切なポイント
利尿剤はおしっこがたくさん出るため、喉も乾きやすくなるので、お水はいつでも飲めるようにしてあげましょう。
しかし、大量の水分・塩分を摂取してしまっては体内の水分量が減らず心臓の負担が減りません。
水分制限・塩分制限をしっかり守りましょう。
強心薬
強心薬は心臓の筋肉に作用して、収縮力を強くし心拍数を減らします。
心臓の筋肉である心筋にカルシウムが入りやすくすることで収縮力を強くします。
薬によって、弱まった心臓の動きをサポートすることによって、組織にたまっていた水分が血中に戻り、尿として排出されます。
これによりむくみがとれて利尿作用が起こります。
中でもピモベンダンという薬は、血管を広げる作用も併せ持っているので、心不全の治療に有効です。
体重1kgあたり 0.25mgが1回量
1日 2回 朝夕12時間間隔で投与
セーフハートチュワブル
有効成分 | ピモベンダン |
成分量 | 1.25mg |
内容量 | 30錠 |
ベトメディン・フレーバー錠犬用
有効成分 | ピモベンダン |
内容量 | 50錠 |
成分量 | |
1.25mg | |
5mg | |
10mg |
ベトメディン・ハードカプセル犬用
有効成分 | ピモベンダン |
成分量 | 5mg |
内容量 | 100錠 |
ACE阻害薬
ACE(アンジオテンシン変換酵素)という血圧を上げる効果のある物質を作りだす酵素を阻害することで血圧が上がるのを防ぐお薬です。
血圧が高くなるということは、心臓への圧力が高いということです。
それは心臓や腎臓への負担となります。
心臓病の初期から処方されることが多いです。
フォルテコール(犬猫兼用)
有効成分 | 塩酸ベナゼプリル
(アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬) |
内容量 | 28錠 |
成分量 | ボタン |
2.5mg | |
5mg | |
20mg |
ベナゼプリル(チバセンジェネリック)
有効成分 |
塩酸ベナゼプリル (アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬) |
成分量 | 5mg |
内容量 | 28錠 |
有効成分 |
塩酸ベナゼプリル (アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬) |
成分量 | 10mg |
内容量 | 14錠 |
ACE阻害薬+強心剤
両方の成分を配合したお薬です。
ACE阻害薬はアンジオテンシン変換酵素の働きを抑えることにより、アンジオテンシンⅡの産生を抑えて、抹消の血管を拡張して、心臓への負荷を抑えます。
強心剤であるピモベンダンなどは、心筋の収縮に必要なカルシウムを効率よく生体で利用させ、心臓の収縮力を高めることで、息切れや息苦しさなどの症状を改善します。
一度の投与でダブルの効果が期待できます。
フォルテコールプラス 1.25mg+2.5mg
2つの有効成分を含有したフォルテコールプラスは、強心作用と血管拡張作用を有する犬用の薬です。
成分(1錠) | ピモベンダン 1.25mg
塩酸ベナゼプリル 2.5mg |
内容量 | 30錠 |
用量
体 重 | 1回の量 |
2.5~5kg未満 | 0.5錠 |
5~10kg未満 | 1錠 |
フォルテコールプラス 5mg+10mg
成分(1錠) | ピモベンダン 5mg
塩酸ベナゼプリル 10mg |
内容量 | 30錠 |
用量
体 重 | 1回の量 |
10~20kg未満 | 0.5錠 |
20~40kg未満 | 1錠 |
40kg以上 | 2錠 |
生活の注意点
生活のさせ方として、あまり興奮させないように気をつけ、長時間の散歩も控えるようにしましょう。
塩分の多いものに気をつける必要があります。
おやつなども塩分に注意が必要です。
塩分の高い食事は高血圧につながり、心臓への負担を増やします。
最近は心臓病用に作られた処方食もあるため利用するのも良いでしょう。
ストレスも影響があります。生活環境を良くしてあげましょう。