正常な場合には生まれたあと閉じるはずの動脈が、成長しても開いたままになるという先天的な異常による疾患です。
犬の先天性疾患としては最も頻度の高い疾患です。
早期発見がかなり大切です。
症状
軽い場合には5,6歳になるまで無症状で過ごしますが、そのあと呼吸困難が現われたり、貧血や運動能力の低下などの、心不全とみられる症状が現われることがあります。
先天性の異常が重い場合には、生後1~2か月程度の幼犬のうちに症状が見られるようになります。
- 重い呼吸困難
- 元気がなくなる
- 食欲不振
このような症状は成長の妨げとなります。
さらに重い場合には死亡することもあります。
原因
原因はボタロー管という動脈管にあります。
胎児の状態では酸素は母親から送られてくるので肺は使用していません。
そのため、肺に血流を送らずに済むようにバイパスを作っています。
これがボタロー管です。
この血管は産まれる前には開通しており使用されますが、出産後には閉じる必要がある血管です。
生後48時間以内に閉じて、数週間後には完全に閉鎖されます。
しかし、何らかの原因でこの血管が閉じずにそのままになった場合、さまざまな障害が起こります。
流れ込みます
ボタロー管のせいで大動脈の血液は、肺動脈のほうへ流れ込みます。
送り出すはずの血液の一部がボタロー管を通って心臓に戻ってくるため、心臓に負担がかかります。
心臓の負担が続くことにより心不全が起こります。
また、肺への血流過多により肺うっ血、肺高血圧が起こります。
肺うっ血
肺へ送り込まれる血液が過剰になると、血液の中の水分が染み出してきます。
これが肺うっ血です。
このようにさらに水が増えてくると肺胞に水がたまるようになります。
これではおぼれているのと同じです。
肺水腫と呼ばれる状態です。
荒い呼吸やヒューヒューとなる呼吸をするようになります。
肺胞は酸素と二酸化炭素を交換する能力がありますが、水没してしまったら機能できません。
そのため呼吸困難となり、身体は低酸素状態になります。
歯ぐきや舌が紫色になるチアノーゼという酸素欠乏症が見られるようになります。
肺高血圧症
ボタロー管から血液が流れ込むため、絶えず血液量は多くなります。
大量の血液を流そうとするので、肺動脈では血圧が高くなります。
この状態が続くと変化が起こります。
- 肺動脈が痛み、肺動脈が硬くなったります。
- 肺はそんなに血液を送り込まれても困るので、血管が狭くなったりします。
肺ではうっ血が起こり、酸素は欠乏状態になります。
心臓はこう考えます。
「酸素が足りないのは血流が悪いからだ!」
そのためさらに圧力を高めて肺に送り出す。
心臓は筋力アップして右心室が大きくなってしまいます。
肺高血圧症の症状
症状の進行と変化です。
初期の状態では、疲れやすかったり、運動時の息切れや、咳がみられる程度ですが、
悪化すると食欲がなくなる、むくみ、肝臓が肥大するなどの症状が見られます。
心臓への負担は積み重なる
右心室は本来高い圧力に耐えられる設計ではないので、この状態が続くと収縮力が弱まり、広がったまま戻らなくなります。
これが右心不全です。
こうなると血液を全身に送り出す能力が低下して、さまざまな症状を引き起こします。
右心室不全になると
少し動いただけで息切れが起こるほど悪化し、立ち上がるだけで失神したりします。
おなかに水がたまったり、チアノーゼ(酸素欠乏症)が見られるようになります。
動脈管開存症の治療
犬の動脈管開存症は、治療を行わなければ生後数年以内に死亡することが多いでしょう。
しかし、先天性疾患の中では、手術によって改善することが最も期待できる疾患でもあります。
生後数ヶ月以内で、可能な限り早期に外科手術によって動脈管を閉塞した場合
95%の成功率があり、そこから6~8週間異常生存できた子犬は、術後の合併症などが見られなければ通常の犬と同じような生活をすることができます。
どんな手術をする?
心臓の手術なので通常は開胸し、ボタロー管を縛って血流を止めます。
また、カテーテルを血管から通して塞栓コイルをボタロー管に置いてきて流れを止めるカテーテル閉塞法などがありますが、これは一部の病院や大学病院のみで行われるものです。
軽症の場合
運動量を制限したり、散歩の時間を短くするなど心臓への負担をかけないように安静を心がけましょう。
運動不足から肥満になると心臓への負担になります。
高血圧もまた心臓への負担です。
食事にも気をつけ、予防するためにも塩分の摂取は控えるようにします。
内科治療
成長ともに悪化する病気なので、場合によっては麻酔や手術のリスクから外科治療できないこともあります。
そのような場合には内科療法を行います。
しかしながら、動脈管を閉鎖する作用のある薬剤は存在しません。
そのため、薬で治ることはありません。
肺水腫や心不全などの症状に対して、薬を使って症状の緩和を行います。
利尿剤で体内の水分を排出したり、血管拡張剤や強心剤で心臓のサポートをします。
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大切なのは早期発見
動脈管開存は先天性疾患なので予防はできません。
そのため早期発見し、すぐに手術を行うことが大切です。
症状は成長とともに悪化していくため、症状が進行したあとでは、手術時期を逃してしまい外科療法を選択できない場合もあります。
そして、根治させるには手術しかないのである。
発見方法
早期発見には、聴診器などで心臓の雑音が聞こえる場合にはこの病気を疑います。
そのあと、X線検査や超音波検査で詳細な検査を行うことによって、症状に合わせた治療法がおこなわれます。
動脈開存症の好発犬種
下記のような犬種で発生率が高い傾向にあります。
好発犬種の場合、異常がなくても仔犬のうちに一度は検査をしておいた方が安心です。
- ミニチュアプードル
- ミニチュアダックスフンド
- ジャーマンシェパード
- コリー
- シェットランドシープドッグ
- ポメラニアン
- チワワ
- マルチーズ
- トイ犬種
またメスのほうが多い傾向が見られます。