多剤耐性菌とは、多くの抗菌薬(抗生物質)に対して耐性を獲得した菌のことです。
抗生物質とは、「微生物が他の微生物に対して発育を阻害する」目的で作り出す物質です。
人類は1982年にアオカビからペニシリンを見つけたことが始まりです。
抗生物質の特徴は人間の細胞にはほとんど影響を与えず、細菌やウイルスなどに対しては効果的であることです。
そのため、奇跡の薬と呼ばれました。
耐性菌が生まれる
抗生物質を使っていると、細菌やウイルスの中に突然変異によって抗生物質に耐える能力を獲得するものがあらわれます。
耐性を持った細菌に対して、その抗生物質は聞かなくなるため増殖してしまいます。
そのため、人類は違う形の抗生物質を探して、人工的に合成しました。
人工的な抗生物質を抗菌薬と呼びます。
多剤耐性菌
細菌は耐性を獲得し続けると様々な薬に耐えられるようになります。
近年では多剤耐性菌の発現により、抗菌薬の投与だけでは対応できない症例もあります。
多剤耐性菌の問題は、耐性を持ったDNAが引き継がれて次の細菌も耐性を持つことです。
つまり生き残りが、どんどん耐性を獲得して強くなっていくということなのです。
人間は新しい薬を開発し対抗していかないと、いずれすべての薬が効かない細菌が発生するかもしれません。
耐性菌の耐性はどうやってできる?
人類は抗生物質の発見によって多くの細菌から生き延びることができましたが、菌やウイルスのほうも抗生物質に対抗してさまざまな方法で強くなってきました。
どんな風に強くなったのか?
突然変異
突然変異とは遺伝子が変化して、親の遺伝子とは違った性質を持つ子孫ができることをいいます。
細胞は分裂を繰り返しながら増えていきます。
分裂して同じ細胞を作るには、遺伝子を複製しなければなりません。
ですが、この複製の過程でミスが発生して遺伝子を少し組み違えてしまうことがあるのです。
そうすると元の細胞とは違う性質のものが誕生してしまいます。
これが突然変異です。
突然変異はそれほど頻繁に起こるものではありませんし、その突然変異が生きていくための温度が変わってしまったり、能力を失ったりして死んでしまうこともあります。
しかし、ときには新たな能力を手に入れることもありえるのです。
こんな風に新しい力を手に入れた病原性のある細菌が、抗生物質や消毒薬が効かないタイプが発生するのです。
耐性のない同じ菌が抗生物質で倒されていく中、新たな抵抗力を身に付けた菌だけがどんどん増えてくことで耐性菌が出現するのです。
主にフルオロキノロン系の抗菌剤(細菌のDNAの複製を阻害して殺菌する効果がある)に対する耐性は突然変異株の出現、細胞分裂に対して一定の割合で出現することがわかっています。
ゆえに、これを防ぐことは難しいようです。
飼い主さんと耐性菌
私たち飼い主がきちんと抗菌薬を使用すれば、その効果は素晴らしく愛犬たちを病気から救うことができるでしょう。
しかし、使い方や考え方が間違っていると耐性菌が生まれ、薬が効かない状態となり治る病気が治らなくなるかもしれません。
ちょっとしたポイントを押さえるだけで大丈夫です。
抗菌薬の選択
抗菌薬の選択は、どんな菌に感染しているのかによって決まります。
獣医師の診断のもと選ばれたお薬を信用しましょう。
私たち飼い主が理解すること
- 定められた用法・用量および投与期間を守る
- 低い用量、途中で中止すると耐性菌が出現しやすい
外用療法の併用
皮膚の病気などは内側から抗菌薬、外からは塗り薬を使うなど両方から治療することで抗菌薬を効果的に短期間使うだけで済みます。
範囲が狭くて、被毛が少ない部位では抗菌剤軟膏が使用可能です。
範囲が広いとき、被毛部位に病変がある場合はシャンプーの併用、または治療の中心にすると効果的。
抗菌薬の濫用しない
抗菌薬は万能薬ではありません。
何度も使えば耐性菌を生み出すチャンスがあります。
- 副腎ステロイドホルモンを投与するとき。
- 抗菌剤が必要でない場面での過剰投与は出現頻度を高める。
まとめ
耐性菌は突然変異株です。
自然界でも起こりえますが、他に菌がたくさんいるため耐性をもつ突然変異種は簡単に増殖できません。
しかし、抗生物質などを使うことで、「他の菌が死に耐性菌だけが残る」このような状況ができることでどんどん増えるのです。
こうして数を増やし伝染し、広がっていくことで薬の効かない菌ができあがるのです。
多剤耐性菌の発生をさせないところが肝心です。
飼い主は症状が改善されると、しばしば投薬を中止してしまいますが、早期の投薬中止は再発と耐性菌の発現を招くことを十分に理解して薬を使わなければいけません。
飼い主の約束
指定された用法用量を守り、出された薬は使い切ることが大切です。