腎臓は体中をめくっている血液をろ過して尿を作るための器官です。
慢性的にこの機能が働かなくなる病気が慢性腎不全です。
腎臓の中にはネフロンという濾過装置がたくさん入っています。
その一つ一つが血液から老廃物を取り除いたり、使える成分を再度取り出したりしています。
慢性腎不全は、何らかの原因でネフロンが少しずつ壊れていき、腎臓が働かなくなる病気。
犬の慢性腎不全は、はっきりした症状が出るまでに時間がかかり、症状が出たときには治療がむずかしいこともあります。
慢性腎不全の原因
慢性腎不全の原因はさまざまな要因があります。
- 慢性糸球体腎炎
- 間質性腎炎
- 水腎症
- 老化による腎臓機能の低下
- 糖尿病
- 高血圧
- 偏った食事(高塩分、高たんぱく食など)
- ガン
- 自己免疫疾患
- 遺伝疾患
- 中毒
原因としてはこれらが考えられ、体内で起こっている状態は腎臓の中のネフロンというろ過装置が少しずつ時間をかけて壊れていくため、腎臓がはたらかなくなります。
血液中に老廃物がたまってくると、血中の尿素窒素の数値が高くなってきます。
そのため血液中の窒素化合物の濃度を調べ、高窒素血症になっていないかどうかを調べる必要があります。
また、血液中のカリウム、カルシウム、リンなどの電解質の濃度も検査する必要があります。
腎臓は多くの仕事を行っているので、壊れたときさまざまな弊害が起こります。
明らかな症状が見られるころというのは、腎臓の機能の75%を失っている状況です。
気づくころにはかなり進行しているということです。
慢性腎不全の症状
慢性腎不全の場合、病気の進行具合によって症状が大きく異なります。
食欲が落ちて痩せることが多いですが、症状が落ち着いているときと悪化しているときではその程度に差があります。
多くの場合は食欲が落ちて痩せる傾向にあります。
ステージ1
初期段階では特に症状は見られず、血液検査にも引っかからないが、尿検査でたんぱくや尿の成分バランスに異常が見られます。
尿検査しないとわからないこのステージですが、正常時の30%程度しか腎臓が機能できなくなっています。
ステージ2
おしっこの量の変化が見られます。
腎臓では老廃物だけをろ過して、水分は再び体に戻しますが、このころには腎機能の低下によって尿を濃縮できなくなってきています。
そのため、比重の低いうすい尿をたくさんするようになります。
たくさん水分がでるので喉が渇いて、たくさん水を飲むようになります。
腎機能は25%程度しか機能していませんが、食欲もあり元気そうなのでなかなか飼い主が気が付くことは難しいかもしれません。
ステージ3
腎機能がさらに低下するため、体内の老廃物や有害物質を除去することができなくなっています。
身体の水分がたまり、むくみや高血圧になります。
また、高尿素窒素血症をおこし、尿毒症になります。
尿毒症になると全身にさまざまな不具合が見られるようになります。
尿毒症の症状
老廃物がたまる
血液の濾過機能が低下することで老廃物が体にたまります。
疲れやすい、皮膚のかゆみ、出血しやすい、むくみなど
消化器症状
おう吐や下痢などの消化器症状が見られる場合があります。
寝起き時におう吐が見られたり、あまり激しくない下痢が続くことがあります。
その他にも尿のような口臭がする、口内炎なども見られる。
神経症状
貧血がほぼ100%に見られ進行するにつれて、けいれんや意識障害を起こします。
不眠も見られる。
高リン血症
慢性腎不全になるとリンの排出能力が低下し、血液中のリンの濃度が高くなってしまいます。
リンが多くなるとカルシウムの吸収が阻害されるため骨が弱くなることがあります。
そのため腎性骨異栄養症という病気が見られる。
これは子イスや老犬が腎不全になったときに多くみられる病気です。
骨折や骨格の変形、骨・関節に痛みが現われます。
このように尿毒症の症状は、たくさん異常を起こすため飼い主は必ず異常に気がつきますが、相当進行している状態で腎機能は25~10%程度です。
ステージ4
慢性腎不全でも、最終段階である末期腎不全まで進行すると腎臓の機能をほとんど失い、尿が作られなくなり、尿の量が減ります。
積極的に治療行為を行わないと生命維持すらできません。
腎機能は10%以下です。
最終的にここまでくるのは、慢性腎不全と診断されて1年半~2年ほどと言われます。
尿毒症を発症すると余命は短くなり、アンモニア臭が口からするようになると余命は数カ月。
尿がでなくなり、痙攣が見られるようになれば、早ければ1週間~1カ月程度となってしまいます。
慢性腎不全の治療法
腎臓のろ過機能であるネフロンは壊れると元に戻ることはありません。
そのため完治を望むことはできず、ゆっくりと病気は進行していくことになります。
大切なことは早期に発見し進行を緩やかにし、生活の改善も行っていく必要があります。
残っている腎臓の機能を長く持たせれば、それだけ健康でいられます。
慢性腎不全の治療では、輸液と食餌療法が中心になります。
また、体内のたんばく質の分解をおさえるために、たんばく同化ホルモンを与えることもあります。
症状によってはカルシウム剤も投与します。
1.輸液
腎不全により尿の量が増えると脱水しやすくなります。
初期の段階ではいつでも水がたっぷり飲める環境を整えてあげることが大切です。
病気が進行し、脱水が起こるようになると、状況に応じて強制的に水分を補給する方法として、輸液をおこないます。
輸液剤はそれぞれの症状、検査結果を考慮しながら選びます。
2.食餌療法
治療の中心はたんばく質のコントロールと塩分を制限した食餌療法です。
カロリーの制限と共に、他の必要な栄養素をバランスよくとらなくてはいけません。
腎不全におかされていても、体はたんばく質、脂肪、 炭水化物のそれぞれが必要となります。
タンパク質の摂取
たんばく質は高品質のものを最小限におさえて与えます。
好ましいタンパク質 | 好ましくないタンパク質 |
|
|
たんばく質は1日に体重1キログラムあたり0・6~1・2 グラム与えます。
しかし高窒素血症が改善されたり血液中のたんばく質が低下したときには、 良質のたんばく質をあまり制限してはいけません。
たんばく質コントロールの問題点
動物性たんばくがふくまれていないと食べようとしない犬がいることです。
食事からたんぱく質を補給しない場合、自分の体内のたんばく質を消費することになるので、結果的に余分なたんばく質を与えたのと同じことになります。
そこで、食餌をしない場合は食餌の中に少量のたんばく質を入れ、食べやすくしてやります。
塩分管理
慢性腎不全では、人間の場合と同様、塩分を制限しなければいけません。
腎機能が低下すると、血液中の余分なナトリウムが尿として排出されなくなります。
このようになると体は血液中の塩分を薄めるために水分を増やします。
その結果、むくみがおこり高血圧につながります。
塩分が多すぎるとネフロンが少しずつこわれます。
しかし急にへらすと 体のはたらきのバランスがくずれるので、時間をかけて少しずつへらします。
体内の水分を使って血液にするので、のどの渇きを感じるため水分を取ってしまいます。
3.たんぱく同化ホルモンの投与
タンパク質同化ホルモンとはステロイドの一つで、タンパク質の吸収をよくする働きをもっています。
オリンピックで選手が使ってはいけない薬の一つです。
たんぱく同化ホルモンは体内でのタンパク質の合成を促進し、たんばく質の破壊をおさえます。
さらに骨へのカルシウムの沈着をうながし、赤血球の生産を刺激します。
食欲がないときには 食欲を増進させる作用もあります。
慢性腎不全では定期的に長期作用型のホルモンを投与することがあります。
4.カルシウム剤の投与
骨の中のカルシウムが失われる病気(腎性骨異栄養症)になったときには、治療としてはカルシウム剤を与え、腎不全に対する食餌療法をおこないます。
5.尿毒症への対策
尿毒症を改善するためには、輸液療法とともに、薬物療法が必要です。
血液中にたまった毒素を排出するために、輸液によって体内の水分を増やします。
そのあと利尿剤を使って尿を出させて排出します。
他にも、毒素を吸着する能力がある活性炭を食べさせることで、体内の毒素を吸着させ便と共に排泄させ改善させる方法などを行います。
胃薬
尿毒症によって胃炎が起こることがあるので改善するための薬を投与します。
主に有効成分ファモチジンを含有するH2ブロッカーと呼ばれるお薬を使います。
胃酸やペプシンの分泌を抑えることで、潰瘍や胃炎、出血などの症状を改善するお薬です。
人間は「ガスター」の名前でお馴染みの成分です。
ファモジン
内容量 | 60錠 |
1錠あたりの成分量 | |
ファモチジン 20mg |
ファモチジン 40mg |
10mg
内容量 | 100錠 |
1錠あたり | ファモチジン 10mg |
[ガスタージェネリック] ファモチジン10mg |
20mg
内容量 | 100錠 |
1錠あたり | ファモチジン 20mg |
[ガスタージェネリック] ファモチジン20mg |
高血圧対策
血液の圧力が高くなるほど、肝臓のフィルターの血管に負担がかかり壊れることになります。
高血圧は慢性腎不全を悪化させる要因となります。
そのためACE阻害剤(エースそがいざい)と呼ばれる高血圧のお薬を使うことがあります。
このお薬は、血圧を上昇させる働きがある「アンジオテンシンII」という物質を減らす事で血圧を下げる薬です。
アタカンド
犬猫兼用の血圧を下げる効果があるお薬です。
有効成分がカンデサルタン シレキセチルの錠剤で、血管を拡張させ水分や塩分を調整し、血圧を下げる効果が期待されます。
副作用が少なく、長期服用に向いています。
心臓病などにも使われます。
高血圧症に用いられる降圧剤ブロプレスと同成分です。
成分量 | 内容量 | ボタン |
8mg | 28錠 | |
16mg | 28錠 |
慢性腎不全との付き合い方
一度慢性腎不全におちいると、いずれまた症状が悪化する憎悪期を迎えて、尿毒症になる可能性があります。
腎不全になった腎臓がふたたびもどることはないので、残された腎臓をこれ以上悪くさせないように配慮する必要があります。
それには犬の体にストレスが加わらないように注意することが大切です。
慢性腎不全の予防方法
- 適切な食事: バランスの取れた食事を提供し、塩分やタンパク質の摂取を管理します。
- 定期的な健康診断: 定期的に獣医の診断を受け、早期発見に努めます。
- 十分な水分補給: 常に新鮮な水を用意し、十分な水分摂取を促します。
早期発見の重要性
- 症状の観察: 食欲不振や体重減少など、初期症状に注意します。
- 定期的な検査: 血液検査や尿検査を定期的に行い、異常がないか確認します。
- 早期治療: 早期発見により、治療の効果が高まり、進行を遅らせることが可能です。