肺水腫はさまざまな原因によって肺に水がたまる病気です。
肺は空気を吸い込んで酸素を取り込み、二酸化炭素を排出するガス交換する役割の臓器です。
その肺に水が溜まって機能が低下するため、呼吸を繰り返しても息苦しく、症状の進行と共に呼吸困難に陥ります。
そのため、重症の場合には命にかかわることがあります。
原因
肺水腫は、肺の役割である酸素と二酸化炭素を交換する役割のある肺胞、そこにいたる末端の細気管支に水がたまって、肺がむくんだ状態「浮腫」になる病気です。
肺に水なんか溜まってしまえば、当然苦しくなり、呼吸困難になります。
肺水腫が起こる原因は大きく2つに分けられます。
心臓の疾患かそれ以外です。
心臓疾患(僧帽弁閉鎖不全症)
僧帽弁閉鎖不全症は心臓の中の弁のひとつが壊れてしまう病気です。
僧帽弁がちゃんと閉じない病気
そのため、心臓が拍動すると逆流したりする。
小型犬でよく見られる病気で、老犬になってくると発症しやすくなっています。
また、遺伝的にキャバリアは発症しやすいリスクを持っています。
心機能の低下が肺水腫を引き起こす
僧帽弁閉鎖不全症や拡張型心筋症などは
「心臓の左側に負担がかかる」ので肺静脈に圧力がかかります。
肺から心臓へ血液が流れにくくなり、肺の中を流れる血液がうっ血して、肺胞のまわりの血管にうまく血液が流れなくなります。
すると血液の圧力によって血管から液体成分が染み出して肺の中に水がたまります。
これが肺水腫です。
炎症が起こった場合
肺に炎症を起こす原因として下記のようなものが考えられます。
- 刺激性ガス
- 気化した薬品を吸い込む
- 薬品による中毒
これらの影響から気管支などの周囲の器官が炎症を起こした場合、結果として肺に水が溜まってしまいます。
その他
犬の肺水腫では心臓疾患が原因で起こることが圧倒的に多いですが、直接肺にダメージを与えるもの以外にも原因が存在します。
- 重度の肺炎を患った場合
- 気道閉塞が起こった
- 腫瘍ができている
- 外傷
- 神経疾患
- 熱中症
- 溺れた
- アナフィラキシーショック(アレルギー反応)
- 電源ケーブルなどを噛んで感電
- 輸液を過剰に投与した
ARDS(急性呼吸促迫症候群)
体の中には侵入してきた病原体や異物を排除する白血球が存在します。
その中のひとつ好中球(こうちゅうきゅう)によっておこる症状です。
体に外傷やショック、感染症などダメージを受けた際に好中球が異常に活発化して、肺の毛細血管に付着した状態で、侵入者を倒すための物質(活性酸素やたんぱく分解酵素)などを放出します。
結果として毛細血管を傷つけるので、血液の液体成分が漏れ出すことになります。
そのため肺の中に水がたまります。
さらに症状は進行すると、肺の細胞を傷つけることになり、肺の機能が低下してしまいます。
人間でも見られる症状で40%ほどの死亡率があります。
動物ではほぼ100%と言われています。
この状態になる前の早期発見が大切です。
肺水腫のメカニズム
肺は、空気から酸素を取り込み、二酸化炭素と交換するために、肺胞という小さな部屋がたくさんあり、とても弾力があるので、膨らんだりしぼんだりして空気を入れ替えています。
構造はスポンジと似ています。
また、酸素と二酸化炭素を入れ替えするために、肺胞のまわりには毛細血管がたくさん張り巡らされています。
毛細血管には実はとても小さな穴が開いていて、血液中の水分(血漿)が血管の外に染み出して酸素や栄養を渡したり、老廃物を回収してまた血管に戻っています。
本来はこのように染み出す量と戻っていく量はバランスがとれています。
肺水腫の状態
心臓の機能の低下などで血流が悪くなったり、肺で炎症が起こるなどでバランスが崩れて、毛細血管から水分が染み出す量が戻る量を上回ったとき肺胞や気管支に水がたまってしまいます。
このように水がたまってしまうと、酸素と二酸化炭素の交換はできなくなり、酸欠が起こって呼吸困難が引き起こされます。
これが肺水腫という状態です。
肺は空気を取り込む場所なので、液体が溜まると呼吸がしづらくなり、呼吸困難になることがあります。重症例では、命に関わることがあります。
肺水腫になると、咳や呼吸が荒くなるといった、呼吸器系に異常を来す症状が見られ、急性の場合は命に関わることもある危険な病気です
症状
その犬がすでにかかっている他の病気の影響でおこることが多い病気です。
そのため、もとの病気の症状によって、全身にあらわれる変化もちがってきます。
肺水腫では溜まった水分が肺などの器官を圧迫し、ガス交換をするための肺胞は水がたまるため、呼吸を妨げています。
肺の中の組織は水浸しになっているので、レントゲンを撮影すると肺が真っ白にうつります。
すぐに処置する必要がある緊急性の高い病気です。
症状として軽いときには、運動したり興奮したときにせきが出たり、軽い呼吸困難があらわれたりする程度です。
呼吸数と悪化具合
肺水腫では安静時の呼吸数が悪化と共に増加していきます。
そのため、普段から愛犬の呼吸数を計っておくとよいかもしれません。
安静時の呼吸数 | |
通常時 | 肺水腫の疑い |
1分間=20回 | 1分間=30回 |
1分間に40回以上で首を伸ばして、口を開き、頑張って呼吸しているような場合は、肺水腫の可能性が非常に高いので、急いで獣医師に見てもらう必要があります。
重症化すると
- 咳を頻繁にする
- 呼吸が早く荒くなる
- 口を開けて呼吸をする
- 泡状の鼻水がでる
- 口や目などの粘膜が白っぽくなる
ひどくなるにつれて咳もひどくなり、一晩中止まらないこともあります。
重症の場合、呼吸が速くなったり、咳を頻繁にするなどの症状がみられます。
楽になろうと姿勢を変える
少しでも呼吸を楽にしようとするため、歩き回ったり、首を伸ばし前足を突っ張ったような状態で座るなどの行動が見られます。
そのため落ち着きがなくなることがあります。
呼吸困難
よだれを垂れ流し、口を開けたまま呼吸をするような、呼吸困難の症状も見られるようになります。
酸素欠乏状態を示すチアノーゼを起こすため、歯ぐきや舌の色が紫色に変化します。
診断
肺水腫の原因によって治療方法も違ってきます。
そのためさまざまな検査をおこなって、どのような原因によって肺水腫が起こっているのか?
また、肺水腫なのかを見分ける必要があります。
心臓や肺の聴診、せきの出る状態、呼吸の速さなどから肺水腫かどうかを診断します。
しかし、これらだけでは十分ではないので、X線検査で肺や心臓の状態を調べる必要があるときもあります。
心臓を調べる
- 肺や心臓のエコー検査
- 心エコー検査
- 心電図検査
これらの検査によって、心臓の異常から肺水腫になっているのか知ることができ、心臓の状態を詳しく知ることができます。
血液検査
血液検査は合併症が起こっていないか知ることができます。
- 感染症になっていないか?
- 腎臓に異常があるのか?
- 貧血気味なのか?
これらを知ることができ、今後の治療に役立ちます。
治療の方法
治療は心臓が原因の肺水腫とそれ以外の原因とで大きく2つに分けられます。
心原性肺水腫の場合
心臓が原因の場合には、基本的に1週間ほど入院させて管理します。
安静にさせて、肺に溜まった水を除去するために、利尿薬などで体から水分を排出させます。
利尿薬は体内から水分を出してくれますが、長時間の利用には腎臓への負担が気になります。
呼吸困難がひどい場合には、酸素室などを利用して高濃度の酸素を吸入させます。
原因となっている心臓の負担を減らすために投薬によって、循環する血液量をコントロールしたりします。
僧帽弁閉鎖不全などの心臓疾患があるときには、せきをおさえるために長期の内科療法が必要になるようなこともあります。
急性の肺水腫では、呼吸困難から死亡することも考えられる ので、症状がみられたら早めに治療する必要があります。
注意ポイント
僧帽弁閉鎖不全症の犬が重度の肺水腫を起こしてしまった場合
生存期間はおおよそ9カ月前後といわれています。
また重度の場合は、入院中に2割弱の犬が亡くなってしまうといわれています。
非心原性肺水腫の場合
心臓以外が原因の肺水腫の場合、意外と数多くの要因が考えられます。
原因を見つけて肺水腫の原因となった症状の治療を行います。
必要に応じて利尿薬を投与したり、炎症を抑える薬などを使います。
症状によっては酸素吸入を行います。
予防
肺水腫は原因となる病気の予防が大切です。
心臓に疾患がある犬は定期的に検査を受けるようにして、咳をしていないか気をつけるようにしましょう。
肺水腫は進行が遅いので、飼い主が気が付きにくい傾向があります。
呼吸が苦しそうだったり、喉に引っかかったような咳をしていたら、それは怪しいサインです。
獣医師に見てもらうようにしましょう。
肺水腫にかかりやすい犬種
肺水腫の原因として多いのは心臓の病気です。
そのため、僧帽弁閉鎖不全症などの好発犬種は肺水腫になりやすいということになります。
- シー・ズー
- チワワ
- パピヨン
- ペキニーズ
- ポメラニアン
- マルチーズ
- ミニチュアダックスフンド
- トイ・プードル
- ミニチュア・シュナウザー
- ヨークシャー・テリア
- コッカー・スパニエル、
- ボストン・テリア
キャバリア種は遺伝的要因によって、僧帽弁閉鎖不全が発症することが確認されています。
オスの方発生率は1.5倍高い。